スティーヴン・キング 『アンダー・ザ・ドーム』
面白かった。寝る間も惜しんで、一気に読んでしまった。
分厚いんだけど、あっという間に読めちゃう。
この読んでるときのスピード感こそキング作品だと思う。
先へ先へと引っ張る、その引きの強さ。
以下、『アンダー・ザ・ドーム』レビューです。
(以後、ネタバレあります。注意!!)
スティーヴン・キングの小説の多くはアメリカの田舎町を舞台にしている。
メイン州キャッスルロック、デリー、そしてこの小説の舞台、チェスターズミル。
キングの作り出した数々の架空の街。
大変魅力的だけど、そのほとんどは悲惨な最期を迎える。
崩壊していく街、そこに住む人々。
作っては壊す。
精細に書き出しては壊す。
キングはそんな小説を今まで、たくさん書いてきた。
田舎町に住んでいる人々の暮らし、そこにある建物、部屋、様々な事物をこと細かく書きだし、顕わにする。その多くは一見、”善良”で心優しく、ありふれたものだ。
自然に溢れた田舎町。
よくある”退屈”な田舎町。
しかしそんな一見、”普通”に見える田舎町でも、実は虫眼鏡のように詳細に見ていくとその裏側には邪悪さ、暴力が蔓延っている。
そんな田舎町がある日、突然、”特殊な状況”を迎えるどうなるのか?
すると、どうだろう。”退屈”は一転し、裏側が表に変わり、暴力が顕在化する。
キング初期の傑作長編『IT』では最初にニール・ヤングの"Hey Hey, My My"の歌詞を引用され、このことが簡潔に示唆されていた。
"Out of the Blue, Into the Black"
「晴天から突然、暗闇へ」
そんな田舎町、そこに暮らす人々がどんどん破滅へと向かっていく道中を読者は共にし、ハラハラする。
キングはそんな職人技をここでも披露している。
この『アンダー・ザ・ドーム』は、ある日、アメリカの田舎町が突然透明なドームにすっぽり覆われたら、どうなる?
そんなアイディアを元にした小説で、チェスターズミルという街が最終的に破滅へと導かれる。
では、ドームを作り出したのは誰か?その目的は何なのか?
その答えは小説内でははっきりとしたことは分からないが、おそらく遠くの星の何者か(それもたぶん子供!)が、遊んでいたのではないかと示される。
子供が蟻を殺して遊ぶように。まるで蟻地獄のように。
ここで面白いのは、その遊んでいる異星人の子供の姿と作者のスティーヴン・キングの姿がある意味、重なってくるようなところではないだろうか?
蟻を殺すように登場人物をおもちゃにする子供の遊びと、登場人物や街を作り出しては壊すキングの所作。
その重なり。
それは思春期的なロックンロールへの寵愛と、ホラーマンガへの偏愛を隠さないキングの姿勢がある種、”子供”のまま大人になったように見えることをも想起させる。
彼はもしかしたら、自分をこの異星人の子供のように感じているんじゃないか。
そう思うと、登場人物が最後に行った決死の解決策は登場人物から作者への訴えのようにも見える。
なんて、書いてみましたが、たぶんそんなことはないでしょう!
ところで、キング作品にはブルース・スプリングスティーンから先ほど挙げたニール・ヤングのように様々なロックスターの名前が出てきます。
(確かパール・ジャムもナイン・インチ・ネイルズも出てきたように思う)
今回は誰かというと、なんとLCDサウンドシステム!
こんな名前も出てくるなんて、時代を感じますね。
ブルース・スプリングスティーンからLCDサウンドシステム!への時代の変化。
LCD Soundsystem - North American Scum - YouTube
しかし、キングは変わらず面白いのが凄いです。