角幡唯介 『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』

面白かった。最初はちょっと読みづらいかな、と思ったけど途中からエンジンがかかってしまい結局、一気読みしてしまった。

 

アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極

アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極

 

 

最近、探検物が面白いな、と思って色々さがしてぼちぼち読んでます。角幡氏の著作は『探検家、36歳の憂鬱』に続き、2冊目。

 

『探検家、36歳の憂鬱』では雪崩に何度も巻き込まれながらも生還した話が面白かったけど、基本的に軽いエッセイの雰囲気だった。(中では探検についての考察・哲学が興味深かったけれど。)

 

こちらは打って変わって、気合入りまくりのノンフィクション、本格探検物。

 

本書の内容は、19世紀にイギリスで活躍していた探検家・フランクリンと彼の隊が北極で消息を絶った謎に迫り、その道程を実際に追って旅をするというもの。

 

 

まず、文章が上手くて、よく出来た小説みたいにドライブ感があった。

 

北極の環境の厳しさ、極地の旅における不安が自分のことのように伝わってくる文章の臨場感が凄い。

(北極熊の恐怖、凍傷の危険、乱氷帯の凸凹の辛さや食料調達におけるハードル(寒くてエネルギーをたくさん消費するのでいっぱい食べる必要がある)などなど)

 

そして、その現在の旅の道程に重ねて、過去のフランクリン隊の行動・歴史が徐々に明らかにされていく。その資料の読み込み、調査の丁寧さにはかなりの情熱を感じた。

 

終盤に行くに従い、物語の焦点はフランクリン隊の最後の生き残り、アグルーカに絞られていく。彼が果たして実在したのか、どこにたどり着いたのか……はわからないけど、地図のない場所に果敢に乗り込んでいったその後姿の描写は確かに美しい。

そこに惹かれる著者の情熱に自分もあてられた感じになった。

 

しかし、都会の快適な自分の部屋のなかで、壮絶な北極の環境について書かれた本を読んで入り込んでると、その乖離感というか距離の遠さにくらくらする。

 

スティーヴン・キング 『アンダー・ザ・ドーム』

面白かった。寝る間も惜しんで、一気に読んでしまった。

分厚いんだけど、あっという間に読めちゃう。

 

この読んでるときのスピード感こそキング作品だと思う。

 

先へ先へと引っ張る、その引きの強さ。

 

アンダー・ザ・ドーム 上

アンダー・ザ・ドーム 上

 

 

アンダー・ザ・ドーム 下

アンダー・ザ・ドーム 下

 

 

以下、『アンダー・ザ・ドーム』レビューです。

(以後、ネタバレあります。注意!!)

 

 

スティーヴン・キングの小説の多くはアメリカの田舎町を舞台にしている。

メイン州キャッスルロック、デリー、そしてこの小説の舞台、チェスターズミル。

 

キングの作り出した数々の架空の街。

大変魅力的だけど、そのほとんどは悲惨な最期を迎える。

 

崩壊していく街、そこに住む人々。

作っては壊す。

 

精細に書き出しては壊す。

キングはそんな小説を今まで、たくさん書いてきた。

 

田舎町に住んでいる人々の暮らし、そこにある建物、部屋、様々な事物をこと細かく書きだし、顕わにする。その多くは一見、”善良”で心優しく、ありふれたものだ。

 

自然に溢れた田舎町。

よくある”退屈”な田舎町。

 

しかしそんな一見、”普通”に見える田舎町でも、実は虫眼鏡のように詳細に見ていくとその裏側には邪悪さ、暴力が蔓延っている。

そんな田舎町がある日、突然、”特殊な状況”を迎えるどうなるのか?

 

すると、どうだろう。”退屈”は一転し、裏側が表に変わり、暴力が顕在化する。

 

キング初期の傑作長編『IT』では最初にニール・ヤングの"Hey Hey, My My"の歌詞を引用され、このことが簡潔に示唆されていた。

 

"Out of the Blue, Into the Black"

「晴天から突然、暗闇へ」

 

そんな田舎町、そこに暮らす人々がどんどん破滅へと向かっていく道中を読者は共にし、ハラハラする。

キングはそんな職人技をここでも披露している。

 

この『アンダー・ザ・ドーム』は、ある日、アメリカの田舎町が突然透明なドームにすっぽり覆われたら、どうなる?

 

そんなアイディアを元にした小説で、チェスターズミルという街が最終的に破滅へと導かれる。

 

では、ドームを作り出したのは誰か?その目的は何なのか?

その答えは小説内でははっきりとしたことは分からないが、おそらく遠くの星の何者か(それもたぶん子供!)が、遊んでいたのではないかと示される。

 

子供が蟻を殺して遊ぶように。まるで蟻地獄のように。

 

ここで面白いのは、その遊んでいる異星人の子供の姿と作者のスティーヴン・キングの姿がある意味、重なってくるようなところではないだろうか?

 

蟻を殺すように登場人物をおもちゃにする子供の遊びと、登場人物や街を作り出しては壊すキングの所作。

 

その重なり。

 

それは思春期的なロックンロールへの寵愛と、ホラーマンガへの偏愛を隠さないキングの姿勢がある種、”子供”のまま大人になったように見えることをも想起させる。

 

彼はもしかしたら、自分をこの異星人の子供のように感じているんじゃないか。

 

そう思うと、登場人物が最後に行った決死の解決策は登場人物から作者への訴えのようにも見える。

 

 

なんて、書いてみましたが、たぶんそんなことはないでしょう!

 

ところで、キング作品にはブルース・スプリングスティーンから先ほど挙げたニール・ヤングのように様々なロックスターの名前が出てきます。

(確かパール・ジャムナイン・インチ・ネイルズも出てきたように思う)

 

今回は誰かというと、なんとLCDサウンドシステム!

 

こんな名前も出てくるなんて、時代を感じますね。

ブルース・スプリングスティーンからLCDサウンドシステム!への時代の変化。

 


LCD Soundsystem - North American Scum - YouTube

 

 

しかし、キングは変わらず面白いのが凄いです。